森寛紹大僧正猊下 直筆三幅

まずはじっくりとご覧いただきたい。

三幅

高野山真言宗元管長総本山金剛峯寺第406代座主 森寛紹大僧正猊下の直筆です。


森寛紹猊下略歴

1899(明治32)年、愛媛県温泉郡重信町(現:東温市)で生を受ける。
           12歳の時に高野山普賢院の住職であった叔父-寛勝和尚を頼り、
           高野山に上がり、普賢院に入寺して剃髪、僧侶の修行の道に入る。
1925(大正14)年、関西大学法学部卒、高野山大学入学。
1942(昭和17)年、大阪・普賢院住職、のち宝聚院住職。
1949(昭和24)年、「ホトトギス」同人になる。学生時代から高浜虚子に師事。
1972(昭和47)年、高野山第473世寺務検校執行法印。
1980(昭和55)年10月、全国1500万檀信徒の最高位である高野山真言宗管長・
              高野山真言宗総本山金剛峯寺第406世座主に就任。
1984(昭和59)年、50年毎の弘法大師御入定御遠忌大法会で導師を務める。
1994(平成6)年12月26日 遷化(享年96歳)。


読者の皆さんはもうお分かりだろう。
そうです。中川義博大兄が所有されている軸物です。
猊下として二幅、俳人としての一幅という形で三幅揃っているのは、
極めて珍しく貴重な代物です。

何故著名な高僧のお軸を三幅も所有されているのだろうか?
何と、頂いたものだという。
今から24年も前、1993(平成5)年の10月24日、
中川さんは5度目の高野山に参拝していた時のことである。
普賢院を散策中に芭蕉堂(寛紹猊下建立)の前にある句碑に目が留まった。


博象碑普賢院HP

平凡を倖せとして去年今年 白象

“平凡に生きることこそ、貴い生き方なのだ、非凡な日常の中に幸せがある”
まるで私の今の心境そのものと暫く思いにふけっていた。

近くに若い僧侶がいたので、「白象ってどなたですか?」と聞いた。
僧侶は「当院の御前様です。書き写さなくてもいいですよ」といい、院から句を染め抜いた
日本タオルを持ってきた。「どうぞ」と差し出した。
「おいくら差上げたらいいでしょうか?」と問うと、笑いながら「差し上げます」という。

「白象」とは森寛紹猊下のこと、「仏の道も、俳句の道も誠を求めることで相通じる」と
学生の時から尊敬する子規の門下となり、ホトトギス派の俳人になったのだ。
俳号は12歳で入寺した普賢院の普賢菩薩が白象にのっているのに因んだものと
初めて知った。

この偶然の出会いに感謝感激し、丁寧に何度もお礼をいい、下山したのである。

「慚愧の繰り返しはもう止めよう。これからは平凡の中に仏性を培い、日々実践しよう。
去年今年、四国遍路もその一環だ」私は肩の荷が下りたような気がした。

帰宅後、早速お礼の手紙に俳句に救われた想いを綴って普賢院に出したのである。

翌11月、普賢院の森寛勝法主から封書が届けられた。
それには祖父、寛紹からですと、直筆の色紙とお軸が入っていた。


寿1 寿2

祖父が筆を執るのはこれが最後となるでしょうとも書かれていた。
絶筆!!「寿」の一字である。
父母からいただいた限りなき、量りなき、寿の命、無量寿(むりょうじゅ)だ。

松陰の言葉が頭をよぎった。
「人には長かれ短かれ四季、春夏秋冬がある。私の命はここで尽きるが実りがある」

単なるお礼の手紙に対して・・こんな有難いことがあっていいのだろうか。
書の下には九十六歳の書とある。
1年後の平成6年暮れに猊下は遷化されたのである。  合掌

その後も森寛勝法主と折に触れ親交が続いた。

平成7年8月、二本目のお軸を拝領した。

仏心1 仏心2

「佛心」、 猊下九十二歳の書である。

字の如く、仏のこころ、心とはさとりのこと。大慈悲である。
平凡の中にも慈悲の実践を忘れないよう生きなければと思う。

平成10年8月、三本目のお軸を拝領した。

金泥1 金泥2

金泥の夢の一字の京扇子 白象

今回は俳人として詠んだ句だった。
添え書きに、「京舞井上流第四世家元井上八千代の踊りを見て詠んだ句です」とある。
夏に東寺に赴いた折にでも京舞を楽しんだのであろうか。

※四世家元井上八千代(1905(明治38)年~ 2004(平成16)年

人は心があるから夢も希望もある。逆に苦悩も絶望もある。正に表裏一体だ。
私は苦悩していた時に“平凡を倖せとして去年今年”の句碑に出合い救われた。
一日一日を平凡に生きる、夢と希望を持って生きようと思う。

中川大兄の説明を聞くにつれ、三幅それぞれの意味するところに感銘を受けたが、
反面羨ましい気もした。日頃の信心と行動の差なのであろう。

普賢院との交流は今なお続いているという。

而今の連鎖が、私たちの一生へと連なっていく。
平凡の中の幸せを噛みしめ、遊行期となった人生を生きたいと改めて思ったのである。

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[ 2017/04/13 16:53 ] 作品 | TB(0) | CM(0)